作業療法士〈OT〉井口教授 × 空野 楓さん

MEMBER

井口教授
作業療法学専攻主任/教授
〈専門〉老年期作業療法、認知症高齢者に対する
作業療法などを専門としている。
空野 楓さん(大阪府立阪南高等学校出身)
2017年に作業療法学専攻を卒業後、脳神経外科の専門病院である医療法人穂翔会村田病院に入職

(取材当時)

国試の合格率だけじゃない。
―教育への情熱にあふれる教員がOHSUの魅力

井口

空野さんはなぜ作業療法士(以下OT)になろうと思ったの?

空野

高校生の頃から人の役に立つ仕事がしたいと考えていて、親戚にOTという職種があると教えてもらったのがきっかけです。

井口

大阪保健医療大学(以下OHSU)への進学を決めた理由は?

空野

高校で実施された進学ガイダンスに井口先生が来られていて、ひと目見てビビッと(笑)。

井口

ほうほう(笑)。本当は?

空野

オープンキャンパスに行くまでは通学のアクセスの良さ、国家試験の合格率の高さに魅力を感じていましたが、オープンキャンパスに参加して先生方の熱量、先輩方の優しさに触れ、ここで学びたいという気持ちが固まりました。

井口

OHSUの先生は確かに熱い。私なんかは特にOTの認知度を上げたいという思いが強いので、「障がいのある人を幸せに導くのがOTなんだ」「OHSUはそんな仕事に携わる人を育てたいんだ」と、ついつい熱弁してしまいますね。

空野

わかります。先生の授業は常にパワフルでしたよね。私が印象に残っているのは高次脳機能障害や精神障害の授業で、当時は症状や病態をイメージできないので先生の話を聞いて、ただただ驚くばかりで。

井口

手や指、記憶にも問題がないのに、食事や着替えなど日常の簡単な作業ができなくなる「失行症」とか?

空野

はい。エピソードの内容やその様子を撮影した動画のインパクトも大きかったですが、授業中の先生の言葉が印象的で。「今日出会った方と明日も会えるとは限らない。もしかしたら、君たちがその方にとって最後のセラピストになるかもしれない。今日手を抜いて、明日その方が亡くなったら、自分を許せないでしょう?」っておっしゃいましたよね。

井口

よく覚えているね。そうなんですよ、OTは毎日100%の力で対象者様に向き合わなければならない仕事なんですよ。それは対象者様のためでもあるし、自分が後悔しないためでもあるんですよね。

毎回、名言が生まれる授業。
―卒業しても捨てられない資料は学びの宝庫

空野

先生の授業は毎回、名言が生まれていた記憶があります。ところで先生、実は私、学生時代の資料をまだ持っていて。最近も同窓生から「あの資料、ある?」と聞かれて、見せてあげたばかりなんです。

井口

それはすごい。学生の鑑!

空野

大事なことが太字で書かれた先生の資料は今も私の宝物。自分だけじゃなく、病院に実習に来た学生さんにも見せて、教えてあげています。

井口

嬉しいなあ。こういうのは本当に嬉しい。

空野

先生、私の初めての学会発表のこと、覚えていらっしゃいますか?

井口

もちろん。

空野

会場に来てくださっただけでなく、最初の質問者としてアドバイスを含めた質問をしていただけたこと、忘れたことはありません。

井口

教え子の学会発表に必ず足を運び、最初の質問者になるというのは私が自分自身に課していることでもあって。私が恩師からそうしてもらって励みになった記憶があるから、自分もそれをつないでいきたいと思っているんだよね。それがまた教え子からその後輩たちへと引き継がれればいいなと。空野さんを含め、私にとって教え子たちは同じOT仲間であり、良きライバルですから。卒業した君たちから学んでいることもたくさんあるんですよ。

空野

そんなそんな、恐れ多いです。

「先生からもらった言葉は一生の宝物」。
―OTになった今も、その思いは変わらない

井口

ところで、空野さんはOHSUで学んだことが今も役立っていると感じることはある?

空野

結構ありますよ。授業でのグループワークや他職種の先輩・後輩との交流は今の病院での様々な医療従事者とのコミュニケーションに役立っていますし、学生時代に取得した「福祉住環境コーディネーター」の資格は在宅復帰に向けた家屋調査・提案で重宝しています。

井口

OT兼福祉住環境コーディネーターとして1人2役を担っているんだ。病院にとっても貴重な存在でしょう?

空野

そう思ってもらえていたら嬉しいですけど(笑)。

井口

いやいや、絶対そうですよ。で、空野さんは今後どんなビジョンを描いているんですか?

空野

はい。実は今、本の執筆を進めていて、6ページほどの症例報告に取り組んでいるので、これを完成させるのが目下の目標です。

井口

なるほど。どんなテーマで執筆を?

空野

脳卒中で当院に入院された方が「運動無視」の症状を呈されていて、それに気づいた経緯からリハビリ、一定の回復までのことを書き始めています。

井口

学べる症例でないと執筆にはつながりませんからね。本を書く機会を得られたのは、空野さんがそれだけいい治療をしているという証。空野さんは学生時代から、頭の中で起こっていることを可視化できないかと考えていましたよね?物事を深く追求するそんな姿勢が「運動無視」の発見につながったんだと思います。

空野

ありがとうございます。でも、いい治療に結びつけられたのは実は井口先生の教えがあったからなんですよ。

井口

というと…

空野

先生はいつも「悪いところを見つけるなよ、いいところを見つけろよ」と教えてくれていたじゃないですか。その言葉がいつも胸にあったので、その方のいいところ、こうすればできるという点に注目し、それを伸ばすリハビリを心掛け、回復につなげることができました。

井口

そうなんだ。嬉しいなあ。嬉しい報告、本当にありがとう。じゃあ空野さん、最後に受験生の皆さんにメッセージをお願いします。

空野

はい。OHSUに入学したらいっぱい遊んで色んな人を知り、色んな経験をしてください。OTは病気を見る仕事ではなく、病気になった人を見る仕事です。人を知り、人を好きになることが、将来、作業療法を提供するうえで必ず皆さんの糧になると思います。受け身ではなく充実した学校生活を送れるように何事にも積極的に取り組み、OHSUで最高のキャンパスライフを楽しんでください。

(ちょっとこぼれ話)

空野

そういえば、井口先生は授業でよく「いい恋愛しろよ」とおっしゃっていましたよね。

井口

うん、言ってた。リハビリと恋愛って似ているんですよ、実は。

空野

どういうところがですか?

井口

恋人同士も最初は赤の他人でしょ?それが恋愛を通じて相手を深く知っていく。

空野

はい。

井口

すると、相手のことがよく分かるから「こうしてあげたほうがいいかな」と工夫ができる。ここが、リハビリにも応用できるんですよ。

空野

相手を理解するから、その方の生活に寄り添うケアができると?

井口

そのとおり。

空野

なるほど。だから、人をより深く知ろうとする恋愛が大切なんですね。
ところで先生、昔、天満橋の居酒屋の前で偶然お会いした時のこと、覚えてますか?

井口

なに?学生時代?

空野

私あの時、マスク姿で居酒屋のチラシを配っていたんですけど、「今、鼻血出てるんです~」って言ったら、先生、さっさと帰っちゃいましたよね。

井口

…空野さん、そういうの今、言っちゃうところ、全然変わってないよね(笑)

空野

あ、取材中でした(笑)。

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